極端に走らない政治を望む

有権者として、政治問題に正解がないということは知っている。全国民が同じ問題を抱えているわけがないのだから、ある政策で特をする人もいれば損をする人もいる。

 

だから国のやり方を国民に押し付けるのもよくないし、政府が大衆が求めるものをすべて叶えようとするのは違う。

 

政治はバランス感覚が必要だ。バランス感覚が優れている政治家といえば、大平正芳だと俺は思っている。彼は地味である。

 

中庸を美徳とする

最近は曖昧な態度と小馬鹿にされるかもしれない「どっちつかずの状態」。しかし、それでこそ周囲に波風を立てずに意見をまとめることができる。大平正芳はそうした中庸の考え方を政治信条として掲げている。

 

彼は、日米同盟の強化に力を入れながらも、中国との関係改善にも精をだし国交正常化までこぎつけた。

 

アメリカを取るのか、中国を取るのか、そうした選択肢の中にあって、両方大事だと言って外交に当たった手腕はすごいと思う。

 

台湾・蒋介石とのエピソードは特筆すべきことだ。蒋介石は、日本が中国との国交正常化によって台湾を切り捨てるのではないかと心配して、いかに中国共産党を打倒すべき存在かを大平に説得を試みる。

 

大平はこう返す。日本は民主国家だから国民の総意で決めなきゃいかん。中国共産党であっても「解毒しながら消化していく」形で時間をかけて解決すべきである。極端な行動を起こさないことを決めたのである。

 

教養や哲学を感じる知性

大平正義は大蔵省出身である。当然相当な知識を持っていたはずである。しかし、決して驕らず政治家になってからも、勉学に励み官僚からのレクチャーを受けていた。

 

また、目先の利益に飛びつかず慎重に物事をすすめるタイプであった。派手なプレゼンや立ち振舞は一切せず、原稿を読みながら言葉を選びながらスピーチを行った。

 

相手は結局「何が言いたいかわからない」と思ったかもしれない。

 

しかし政治家としてある一定の集団だけのために端切れのよい演説をするよりも、国民全体の利益を考えると、どうしてもまどろっこしい表現になってしまうのだろう。

 

俺も実はハキハキ立派に話している政治家は胡散臭く感じる。「あー、えー」と吃りながら話しても、俺は気にならない。

 

信念がある

中庸を重んじ、全体最適を常に考える政治家はリアリストなのかというと、そうでもない。大平正芳は理想主義者であった。

 

折り合いのつかない交渉は決裂上等と思って行う。たとえ先輩議員であっても、意見が違う場合にはその旨を表明する(結果、干されたり、主要ポストを外されたりしたようだが)

 

信念といえば、大平正芳は派閥政治を大切に考えていた。派閥政治への不信が高まり、多くの政治家が派閥の解体を目指していた中、大平は派閥の渦中にいながら権力闘争にひた走っていた。

 

派閥はデメリットばかり取りだたされるが、いくつかの功績もある。自民党内で多様な意見を汲み取る受け皿ができることだ。派閥を活かすことで政権への牽制にもなるし、バランサーとして極端な政策に走らないように仕向けている。

 

一つの政策によって利を得る集団と、損を被る集団が生じる。それぞれに配慮した形で整えると、玉虫色の政策になるのである。

 

大平は首相の任期は短くすべきとも考える。全国民が納得する政治などありえない。だから順番に首相になった人間が、一つずつ政策を叶えていくほうが全体最適としてはよくなるはずだ、という信念があったのだろう。

 

燃え尽きる人生

俺が大平正芳に強い印象を持ったのは、彼が首相として死んだからだと思う。総選挙の直前に逝去した。国の最高指導者として人生を終えるなんてドラマチックすぎる。

 

党内の派閥抗争や外交面での交渉など心労祟った結果だったのだろうか、それにしても最後の最後頂点を上り詰めた男の燃え尽きた人生に感銘を覚えるのである。

 

 

現在の政治に目を向けてみれば、長期政権が終わった後の新たな首相選びである。派閥による多数派工作は今もまだ健在である。しかし、どうやら無派閥の官房長官が一歩リードといったところだ。

 

派閥の影響がない政治は極端に走るのだろうか。

 

政治家は自分を支援してくれる人のために国会に立つ。多様な意見が国会に持ち込まれるわけだから、ある一定の意見だけに目を向けず慎重な政治運営を望みたい。